本年度は最終年度として研究の集大成を図るべく、これまでに構築された環境と貿易に関するデータベースに基づいて、主に以下の3点について研究を行った。 第1に、1988-2009年の世界150カ国以上について国際貿易に内在化された汚染排出に関するデータベースを構築して、汚染排出量の推移を示した。昨年度までは各国の汚染集約度は国・期間を通じて一定という強い仮定の下で分析したが、今年度はこの仮定を緩めて各国・各時点の技術水準の違いを反映した汚染集約度の再計測を行った。その結果、貿易による汚染排出の変化を貿易額の変化による規模効果、貿易品目の構成の変化による構造効果、汚染削減技術の変化による技術効果の3つに分解して示すことが可能となった。 第2に、輸出に内在化された汚染排出と輸入に内在化された汚染排出の差として「貿易に内在化された汚染排出」を計算し、それが汚染集約的な産業が先進国から発展途上国に移転する汚染逃避地仮説(Pollution Haven Hypothesis)に従うかどうかを検証した。上述の再計測をした汚染集約度の下で、所得水準や民主主義度の上昇が「貿易に内在化された汚染排出」を減少させるという結果が部分的には得られた。ただし、汚染集約度は国・期間を通じて一定という仮定の下で、構造効果のみに焦点を当てると、所得水準や民主主義度の上昇が貿易構成をクリーンな品目にシフトさせるという効果は見られなかった。以上の研究は、すでに日本経済学会で報告を行ったが、細部に関しては改善が必要な個所があり、国際学術雑誌の投稿へ向けて改訂中である。 第3に、東アジアの持続可能な経済発展を分析するための基礎的な分析ツールの拡充として、包絡分析法(Data Envelopment Analysis)による環境効率評価の日本やアジアへの適用、リサイクル貿易の理論的分析を行った。
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