本研究は、産業集積のライフサイクルの観点から、その発展・衰退段階に応じた企業組織ルーティンの性質と機能の進化、当該産業と産業集積の持続的発展可能性の要因分析を目的とする。産業・産業集積内部における個別企業の組織ルーティンの拡張・深耕を、進化経済学の観点から理論・実証の両面から考察する。 平成22年度は、未開拓調査フィールドの中国における産業発展段階の把握と本格的な調査実施のためのパイロットサーベイを香港・広東省にて実施した。株式市場への上場と資本調達、それによる大陸生産の本格化と拡大を続ける香港メーカーの代表的な発展経路を確認することができた。ただ、香港市場における日本企業やイタリア企業のブランド認知度の高さやファッション性に比べると、香港メーカーはローエンド商品のグローバル市場展開を戦略的に志向している。他方、産業集積としての機能は香港と大陸でどのように分業されているかは、次年度の本格的なフィールド調査で明らかにしたい。 本年度の調査では中国広東省と浙江省における日系メーカーの現地工場調査が実施に至らなかった。国内メーカーもリーマンショック以後の消費低迷で、中堅大手メーカーが倒産するケースがあり、産業集積としての持続的発展と企業ルーティンの進化が地域経済の重要なテーマとますますなりえると考えられる。企業や業界団体、自治体関係者らとの創発的な知的交流活動が、地域産業の発展に寄与できるよう、さらなる研究の推進に臨みたい。
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