わが国の産業集積は、経済のグローバル化、競争の激化、IT革新による価値連鎖の地理的分断などにより、一般的には縮小傾向を続けている。経済構造と企業の競争環境の変化に対して、産業集積それ自体が対応しうることに限界があることは明らかである。従来、国内の産業集積や海外のそれを、単体として取り上げ、その生産構造や流通構造を分析する手法はこれまでも蓄積がある。しかし、国際比較となると、その対象の選定、事例代表制、調査立案と実施の困難性から、十分に行われてはいなかった。しかし、日本とイタリアは、コモディティ(日用品)分野の生産に特化した産業集積(イタリア語では産業地区:Distretti Industriali が一般的)が存在し、その比較研究を行ってきた経緯がある。そこで、産業集積としては成熟・縮小過程にある日本とイタリアに加え、発展成長段階にある中国・香港の産業集積を比較することで、産業集積の持続的発展可能性を提示する上で議論の深耕を図ることができると想定し、研究を推進した。 本研究は、産業集積のライフサイクルの観点から、その発展・衰退段階に応じた企業組織ルーティンの性質と機能の進化、当該産業と産業集積の持続的発展可能性の要因分析を目的とする。産業集積内部における個別企業の組織ルーティンの拡張・深耕を、進化経済学の観点から理論・実証の両面から考察する。 結果、グローバル価値連鎖にともなう諸プロセスにおいて、不断の改変・外延化、すなわち組織ルーティンの進化を行い、プロセス全体を垂直統合する経営形態への収斂と企業成長が、産業集積に果たす役割において極めて重要であることが浮き彫りとなった。
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