日米の長期ケア施設を比較する場合、焦点は、アメリカにおいて1960年代以降発達したナーシングホームと、日本において同時期に高齢者の居場所となっていった医療法人立病院群(いわゆる「老人病院」)と1963年の老人福祉法制定以降増大が遅れたホームを中心とする老人ホーム群を比較検討することである。 両国には基本的な類似点がある。それは、在宅ケアの発達が1990年代まで弱かったことである。このため、自立することが難しくなった高齢者を処遇する制度は、病院か老人ホームということになる。アメリカにおいては主に老人ホームの一種としてのナーシングホームがこれにあたり、日本においてに主に病院の一種としての「老人病院」がこれにあたった。ここで重要なことは、この違いが実質的な違いなのか、名目的な違いなのかという点である。この点を歴史的に解明することによって、今日の日本における高齢者医療・福祉政策に対する示唆が得られることになろう。 具体的には、アメリカのナーシングホームの発達史については、C.C.Pegels(1981)およびR.Stevens(1989)による高齢者医療史・病院史を土台として、1960年代以降のナーシングホームに関する文献を渉猟するとともに、各種統計を利用して、ナーシングホーム発達史を概観した。また、日本については、1950年代から1980年代にかけて、厚生省『医業経営実態調査報告』、『日本医事新報』、『日本医師会雑誌』、「中央社会保険医療協議会議事録」等を検討するとともに、老人福祉法制定以前から養護老人ホームを運営していた社会福祉法人による特養ホームの開設事例を文献を用いて調査した。
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