研究課題
本研究の目的は、日米における長期ケア施設の発達史を比較することを通じて、長期ケア施設の役割に関する長期的展望を開く上で有効な知見を得ることである。20世紀後半の歴史をみると、日米の高齢者処遇には明確な違いがある。それは、アメリカにおいて高齢者は主にナーシングホームに収容されたのに対し、日本においては主に病院に収容され、それが日米の高齢者ケアの違いを示すものであると考えられてきた。本研究で問われたのは、まずこの認識が事実認識として妥当であるか、および両国の制度差が、実質的な処遇の差異を意味していたのかどうかである。本研究では、日米の長期ケア施設の資本ストックの歴史的推移の比較、この論点について日米の長期ケア施設における自己決定権に関する取り扱いの違いという観点から主に文献に依拠しながら、検討を加えた。本研究で得られた知見は以下の通りである。1)日米の長期ケア施設においては、高齢者の増加にもっとも鋭く反応した施設形態が、日本においては病院(医療法人立病院と個人病院)であり、アメリカにおいてはナーシングホームであった。その意味では、日米の高齢者処遇に関して制度上の差異があったことはたしかである。2)他方で、両国に発生したスキャンダルや身体拘束などについての報告を検討する限り、日本の高齢者を主に収容してきたいわゆる「老人病院」アメリカにおけるナーシングホームの間には著しい共通性があった。このことは、両者の間の制度上の違いが名目的である可能性を示している。3)これとは別に、入所高齢者に事実上行使が認められる自己決定の範囲については、アメリカのナーシングホームの方が「老人病院」よりも広範である可能性があることがわかった。総じていえば、日米の長期ケア施設におけるケア内容の差異には、制度差よりも、社会の高齢者に対する処遇に関する規範の影響が深く関わっていると考えられる。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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こころの科学
巻: 2012年11月号,日本評論社 ページ: 8-13