研究概要 |
日本の将来人口の予測を確率的に行う試みはOkita, Pfau and Long (2011)で一応完成をみたので、我々はこれを用いて年金財政の将来予測について信頼区間を計算することを目指してきた。これは人口の確率的予測と年金財政の予測を結びつけようというものである。しかし、政府において税と社会保障の一体改革が始まり、それは消費税の2014年からの引き上げにつながるなど、年金財政の予測の前提条件が大きく変わりつつある。また、2004年のマクロ経済スライドの導入を含む年金改革が予測の前提条件と当初考えていたが、この改革が現在、多くの面で変更されており、前提条件として使えない状況にある。たとえばデフレによってマクロ経済スライドが停止している状況では、デフレでもこのスライドが働くように改訂されるという前提で予測をするのか、あるいは物価上昇率が2015年から2%になり、以降、マクロ経済スライドが機能しはじめる、という前提で予測するのか、などいくつものケースを扱わなければならない。そして、どんなケースでもそれが現実的なものとなるのかが流動的である。 このような状況下で、研究の方向としては、①海外、とくにアジアにおける人口の確率的予測を試みること、②人口の動向が与える影響について公的年金ではなく私的年金へのものを考えること、③年金を中心とした社会保障制度の改革を研究すること、などへ研究の方向を変化させざるをえなかった。なお、②については、年金について、他の退職後のための収入確保(財産の取り崩しや資産運用など)との比較という形で行った。 このように研究の方向の変化はあったものの、もとの方向の研究も進めるべく、平成21年財政検証結果レポートの、年金数理計算基礎資料(第5章)にある、数式(モデル)を表計算ソフトに乗せる試みを始めたが、これは膨大な作業であるため、中断した。
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