平成24年度の研究では、地方公立病院を核とする地域医療サービス供給の枠組みが、「健康格差の解消」、「医療の質の確保」と「医療費総額の削減」に及ぼす効果を検討した。現行医療制度は地域や所得による医療へのアクセスの格差を解消することを目的としている。現行制度は国による地域医療計画に基づく病床などの規制、そして医療行為や薬剤の公定価格の決定などによって基本的に公平で効率的な制度となっている。医療制度の財源は公的医療保険制度により調達され、医療サービスの供給は自由開業制の下で民間の診療所や病院が中心となって行っている。 しかし、都道府県や市町村が運営している公立病院は病床300床以上の病院の30%に達し、その3分の1は地方の医療過疎地域に立地して地域医療を担っている。地方公立病院は、診療報酬の全国一律の引き下げや国から地方への交付金・補助金の削減などによって、勤務医・看護師の減少による診療所への規模縮小、別の病院との統合、民間への譲渡されている。また、医療サービスの質の維持には急性期病院を手術などの2次医療に集中させ、外来診療を診療所で分担することが求められるが、民間中心の医療サービス体制は統合・総合化を困難にしている。 国民皆保険、民間中心の医療サービス体制、フリーアクセスなどは医療費を増大させるが、診療報酬の改定幅の調整によって医療費の総額をコントロールしてきた。同時に、診療報酬の点数配分を変更することによって、医師不足の問題が深刻な病院勤務医、産婦人科医や小児科医の地域偏在や救急等の特定診療科の政策誘導が行われている。民間の医療機関は公的医療保険制度の下での診療報酬に依存し、診療報酬の点数設定に敏感に反応するために有効に機能した。しかし、診療報酬による経済的な誘導手法だけに頼ることは適当かまた、今後どのような方向を目指して改革を進めるべきか検討する必要がある。
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