平成22年度、伝統的な仕組みの「復活」と「改革開放」との相互関係を念頭に置きながら、研究を進めてきました。中国福建省に5日間、山西省・北京市・遼寧省大連市に6日間、陝西省西安市・青海省徳令哈市に8日間、現地調査・資料収集を行いました。 福建省では、「銭荘」の元経営者、その顧客企業および新設された「貸款公司」(貸金会社)の関係者に対するヒヤリングのほか、福建省档案館・越洋図書城にて資料収集を行いました。山西省では、省都太原市とその周辺数県を訪問し、「銭荘」の一つである遠隔地為替を中心業務とする「票号」(山西商人が所有・経営するものがほとんどであり、俗称「山西票号」)と「小口貸款公司」の関係者に対するヒヤリング調査と資料収集を行いました。また、北京市・大連市の档案館でも「山西票号」の北京・大連支店の経営に関する資料の収集を行いました。西安市・徳令哈市では、福建省出身の炭鉱経営者グループの資金調達ルートを中心に調べました。 今年度、企業の経営形態を中心に研究を進めてきました。「銭荘」を中心的な機関とするインフォーマル金融全体を、「民間貸借」をキーワードに整理しました。自然発生的な「民間貸借」は、古くから組織的な「銭荘」を生み、1980年代以降にもその「非組織性」で政府によって容認されました。それは、民間企業に資金を供給してきただけではなく、民間企業の生成・経営にもノウハウを提供しました。一方、中華人民共和国の成立以降、経営における「所有形態」は一旦私的「企業形態」を完全に駆逐しました。しかし、ソーシャル・キャピタルに基づく企業伝統は私企業を復活させました。さらに、政府の追認により、「企業形態」は以前より強固なものになりました。
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