研究課題/領域番号 |
22530281
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小巻 泰之 日本大学, 経済学部, 教授 (80339225)
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キーワード | リアルタイムデータ / リヴィジョンスタディ / 政策評価 |
研究概要 |
研究費の繰越が認められ,23年度の研究期間は24年9月末まで延長された.まず,繰越の原因となった財政変数及びCPIに関するリアルタイムデータベースの再構築を進め,24年3月末に80%レベルまで復旧し,24年5月頃までにはほぼ復旧させた.復旧させたデータをもとに,財政変数及びCPIのリヴィジョン・スタディ,70年代の金融財政政策の再評価を行った. 70年代の政策評価については,リアルタイムデータベースを完了させ,マクロモデルを構築し,70年代のインフレにおける金融財政政策の影響について,貨幣需要の面から定量的に再検証した.70年代のインフレ及び金融財政政策の評価については,これまで多くの先行研究が出ているものの,金融政策の適否に関して検討されている場合が多い.一方,財政政策については,先行研究でインフレ高進の一因として指摘されながらもその分析手法は当時の状況証拠などによる定性的なものに留まる場合が多く,金融政策のそれと比べると再検討の余地が大きいと考える.そこで,AD-AS型のマクロ計量モデルを作成し,Taylor型の金融及び財政の政策ルールを用いて,当時の経済環境から導かれる理論値及び実績値を外生変数としてシミュレーションを行い,貨幣需要への効果を検証した.リアルタイムデータによる分析では,70年代におけるマネーストックの増加の全てが金融政策に影響されたものではなく,財政政策の効果も指摘できる.しかし,ファイナルデータで評価すると,金融政策は政策ルールが示すより大幅な金融緩和が実施されており,この状況が75年頃まで継続している.また,財政政策についてもその後の改定されたデータでみると,73年7月頃まで拡張気味の政策が継続しており,金融財政の両面から貨幣需要を喚起する方向にあったことが伺えた.ただし,分析方法は初歩的なものであり,今後さらに分析を精緻に行う必要があると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011年11月に,リアルタイムデータの財政変数に関するデータベースを中心に,機器故障による使用不能となったため,まず,リアルタイムのデータベースの再入力を行った.データ入力は2012年5月に,ほぼ復旧させた.作成したリアルタイムのデータベースをもとに,財政変数のリヴィジョン・スタディについて欧米を含めた国際比較を実施した.OECDが集計しているプライマリー・バランスの場合,先行研究で示されたようにOutput Gapの改定が大きい日本,イタリア,ポルトガル,アイルランド,スウェーデンでは財政収支の改定が大きいことが伺える.ただし,改定について要因分解を行うと,日本を除き,Output Gapの改定が大きいイタリア,ポルトガル,アイルランド,スウェーデンではノイズの影響が大きくなる傾向が伺えるものの,要因分解で得られたバイアス,ニュース及びノイズと財政収支の改定との関係については特定できる傾向はみられない.単なる比較では見かけ上の関係をみているだけであり,各国独自の財政制度を反映した分析が必要かと考えられる.この結果は,2011年度統計関連学会連合大会(九州大学)で発表した.なお,OECDのリアルタイムのデータベースは国によっては独自に推計を加えた場合もあるとされ,そのデータベースの特性について検証する必要があると考える. 金融政策については,物価連動債の日次データを購入し,期待インフレ率を計測するリアルタイムベースの日次モデルを構築できるところまでに至った.この点からすれば,23年度の本研究プロジェクトの当初計画の目標を繰越によりほぼ達成できたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
リアルタイムデータの構築では,日本だけでなく,欧米,韓国のCPIに関するデータベースを構築し,日本CPIとの比較,金融政策の評価を行う.また,CPIの基準改定における金融政策の評価を拡充するために,物価連動国債の日次データを日本相互証券から購入する予定である.これにより,CPIの公表が期待インフレ率に与える影響を実証分析する予定である. 財政政策については,予算,補正後予算,決算の段階毎のリアルタイムデータによる分析を行い,日本における財政政策スタンス(景気変動に対してPro-cyclicalか,Counter-cyclicalか)を実証分析する.さらに,90年代の財政支出乗数についてVARモデルを基に再検証する予定である.
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