本研究の最終年度として金融財政政策の評価に関する基本的な変数のリヴィジョンスタディ及び評価への影響を検討した. 金融政策ではインフレターゲット政策の導入を受けて,その対象変数であるCPIの基準改定の影響について検討した.諸外国では基準改定前後でも新旧指数は切れ目なく接続され,改定の存在を認識させない.しかし,日本では基準改定実施の直前6カ月間は例外で,一旦公表された数値は新指数に置き換えられる.しかも,新旧指数の乖離は顕著に大きく,2005年基準改定では市場予測を上回る下方改定となり市場は大きな混乱した.その原因は,期待インフレ率を計測すると,予測より-0.14%程度改定が大きかった.一方で,事前公表が取り入れられた2010年基準改定では期待インフレ率への影響は確認できなかった.つまり,予測可能な状況にあったとみられる.政策変数の公表では,市場に無用な混乱を与えないような配慮が必要である. 財政政策については,プライマリー・バランスの特性を検討した.改定の要因分解を行うと,プライマリー・バランスは,どの予算段階でもノイズのウエイトが最も大きい.ただし,プライマリー・バランスで,各年度のGDP速報値で固定しGDP改定の影響を除去すると,補正後予算から決算への改定を除いて,ニュースのウエイトが大きい.つまり,GDPの改定が改定要因でノイズを増加させている.リアルタイムベースではプライマリー・バランスの改定はノイズが大きく,ファイナルデータではニュースが大きくなり,評価が異なることを意味している.財政変数は,その変数が予算段階のどの時点のデータを計上したものであるのかと明確にして利用する必要がある.もっとも,財政政策の評価は金融政策ほど先行研究が多くなく,景気循環の関係(Counter-cyclicalか)や財政支出乗数の推計など,多くの課題が残されている.
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