研究課題/領域番号 |
22530283
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
菅沼 隆 立教大学, 経済学部, 教授 (00226416)
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キーワード | デンマーク / フレクシキュリティ / ソーシャルダイヤローグ / モビケーション |
研究概要 |
デンマークを訪問し、専門家へのインタビュー、講義・講演の聴講、および資料収集を行った。1990年代以降の雇用政策の特質を明らかにするために、デンマークの労使関係と労働市場の特質について、デンマーク語の研究書・研究論文・一次資料をもとに分析を行った。それは旧来の我が国で抱かれていたデンマーク労使関係イメージを変えるものであったと考えられる。 我が国では、デンマークの労使関係は隣国スウェーデンの産業別労働組合のイメージで語られることが多かったが、実際には教育・訓練歴別に形成されたクラフト・職業別組合の伝統が色濃く残っていることが明らかとなった。また、労働組合の全国組織はLO(全国連合)のみが知られていたが、他にも3つないし4つの全国組織が存在し、組合間の競合も激しいことが確認できた。さらに、団体交渉の制度の枠組みと交渉のプロセスも明らかにした。1990年代以降、団体交渉システムは、分権化・個別化が進み、全国組織による統一的交渉の比重が低下しつつあることが明らかとなった。教育歴別・訓練歴別に組織化された労働市場のもとでの労働市場の流動性の程度と構造を分析した結果、「毎年全労働者の3分の1が転職している」という情報は非労働力化した労働者を含んだ数字であり、過大であること、だが、それでもヨーロッパの中でも高い流動性を示していることを明らかにできた。また、離職者の半数が以前の職種と異なった職種に転職している事実も発見することができた。教育・訓練歴別に労働市場が構造化しているもとで、流動性が高い理由を教育・訓練制度が別職種への転職を可能にする条件は、コムーネの雇用委員会(労使共同)、労働組合と失業金庫の職業紹介機能、多様な職業訓練プログラムにあると考えられる。また、経済政策の立案は、経済諮問委員会(労使共同)が6ヶ月毎に作成する『経済白書(デンマークの経済)』に基づき、経済環境の変化に機敏に対応した経済政策を可能にしていること、労使の対話を円滑にする効果があることが確認できた。近年注目されている「モビケーション」概念についても検討を加えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1990年代以前の歴史的背景まで調べることができたことは、計画以上に進展した部分があったと考えられる。また、労使関係の構造を明らかにできたことは、研究テーマを深く掘り下げるために重要な成果が上げられたと考えられる。だが、雇用政策については、資料の収集と整理が一定進んだ段階であり、また、経済政策については資料収集は進んだものの、整理する段階に達していない。この点ではやや遅れている点があり、全体として順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、研究計画の最終年であり、雇用政策と経済政策の関連をまとめる。その際、労使関係と労働市場の実態に留意しつつ、コムーネ雇用委員会、労働組合の職業紹介機能、職業訓練プログラムの実態を明らかにする。また、経済諮問委員会の報告書の各号を分析し、1990年以降のデンマークの雇用政策と経済政策の関連を明らかにする。
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