2011年度、研究休暇を利用してデンマーク・ロスキレ大学客員研究員として調査研究に従事した。この蓄積を前提として、2012年10月末から1週間デンマークを再訪問し、オルボー大学労働市場研究所の研究者に面会し、聞き取り調査を行った。これら前年度・当該年度の調査を踏まえて、2012年度は、1990年代以降のデンマークの雇用政策と経済政策の交錯関係について、デンマーク労働市場の歴史的・構造的特質に配慮しつつ、グローバル化に対して労働組合と経営者団体がどのような対応をとって来たのか、当該団体の刊行資料や声明をもとに分析を行った。その暫定的な成果として立教大学社会福祉研究所主催公開講演会「グローバル化に向き合うデンマーク福祉国家と労働組合―デンマーク労使関係の伝統といま-」にて講演を行った。この講演では、デンマークの労使関係の歴史的特質を分析しつつ、グローバル化に向けて労使が人材育成に向けて共同で取り組んでいること、経済政策の一環として人的資本投資としての教育訓練制度が充実していることを明らかにした。また、2012年5月開催の社会政策学会第124回大会(駒沢大学)において「社会的投資としての育児・介護サービス-デンマークと日本」分科会のコーディネーターとして分科会を統括した。この分科会ではロスキレ大学ベント・グリーヴ教授、東京大学大澤真理教授、国立保健医療科学院森川美絵氏にご参加いただき、社会サービスへの投資が経済成長にどのようなプラスの効果をもたらすのか、デンマークと日本を事例に比較研究を行った。今年度の研究全体を通じて、デンマークの経済政策は、教育訓練と家族政策を人的投資・社会的投資として位置づけており、これが国際競争力の高い高度福祉国家を支える重要な要因であることを明らかにした。
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