本研究は、金融部門を統合したマクロ経済モデルのエージェント・シミュレーション・モデルを構築し、日本経済が直面するデフレや財政破綻を回避する金融・財政政策の提言を行うことを目的としている。本年度の研究目標は過去の景気循環モデルをサーベイし、景気循環の基礎的なメカニズムを解明するために、投資の意思決定を中心にしたエージェント・モデルを構築することであった。とりわけ、景気循環(より一般的には経済成長や景気の後退)を引き起こす基本的メカニズムは金融的な現象(信用の拡張や収縮、資産価格や担保価値の変動等)なのかあるいは実物的現象なのかを突き止めることを中心に研究した。我々は長い投資の懐妊期間をもち、減価償却費だけ元本を返済する投資企業を仮定した。その上で、有効需要と投資の採算性の制約を意識した多数の投資企業のエージェント・モデルを構築した。実証研究と首尾一貫している景気循環がロバストに起こること、全体のパーフォーマンスに賃金の下方硬直性が重要な役割をはたすという結果を得た。この成果は、2010年9月にレイキャビクで開催された、MAFIN(Managing Financial Instability in Capitalist Economies)2010と2011年2月にニューヨークで開催されたEEA(Eastern Economics Association)2011という2つの国際会議で研究報告した。そこで、一定の評価を頂き、また、有益なフィードバックを得ることが出来た。また、景気循環の理論的側面の解明も同時並行で進めており、景気循環を引き起こす基本的なメカニズムが金融的側面とは独立に存在することが分かりつつある。本年度の目標に照らして、充分な成果があったと考えている。
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