研究概要 |
少子・高齢化の進行によって、年金、医療など高齢者向けの公共サービス増加への政治的圧力が強まり、教育への公的支出が相対的に低下するという経路が考えられる。本研究では、その関連を明らかにするため、人口構造の変化と公教育費との関連を分析した。日本のデータを用いた研究は、Ohtake and Sano“The Effects of Demographic Change on Public Education in Japan”in The Economic Consequences of Demographic Change in East Asia, NBER-EASE Vol.19, 2008, 井上・大重・中神「高齢化は教育費に影響するか」中神他編『教育の政治経済分析』2007シーエーピー出版 があるのみであり、ともに児童・生徒一人あたり公教育費(義務教育費)が高齢者(65歳以上)人口割合の増加によって圧迫を受けているとの研究結果を報告している。本研究では、それらとは異なり、日本の高校進学率がほぼ100パーセントに近いことを考慮し、生徒一人あたり公教育費を高校まで含めて算定するとともに、高齢化の指標として高齢者人口割合だけでなく、高齢者一人あたりの公的支出(老人福祉費)をも用いて「世代間の闘争」が存在しているのかを検証した。パネル・データでのDOLS等の最近の計量経済学の成果を取入れた分析手法を用いて、高齢者人口の割合の増加は、高校を含めた児童・生徒一人あたりの公教育費に対して負の効果を持つが、一人あたり老人福祉費との関係でみれば、必ずしもそのような関係にはないことを見出した。すなわち、日本の事例では、人口構造の変化からは「世代間の闘争」が確認できるけれども、財政政策の観点からは、それは存在しない、という混合した分析結果を得た。
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