研究概要 |
本研究の目的は,日本の中央・地方政府間,および地方政府間どうしの相互依存関係を,財政的・政治的な制度的要因が与える影響を十分に考慮しながら,理論的に考察し統計的手法によって検証することにある.平成22年度の実績はおもに2つある.第1は,都道府県が行う工業団地の開発に,中央政府と周囲の都道府県が与える効果の検討である.工業団地の開発にはしばしば中央政府からの補助金も充てられることから,周囲の都道府県との企業の誘致競争に参加している都道府県は,中央政府からの補助金獲得競争も行っているものと考えられる.補助金獲得への都道府県の努力水準を中央政府からの出向官僚の受け入れで代理させて統計的な解析を行ったところ,90年代には都道府県はこれら2つの競争に参加していることが示唆された.第2は,都道府県の財政規律の維持に中央政府が果たす役割についての理論的・実証的検討である.都道府県で働く中央政府の官僚は,中央政府とのパイプ役を果たしているが,「外部者」として独特な役割を果たしているかもしれない.本研究では,財政逼迫が深刻化する90年代後半以降,出向官僚が首長のコミットメントデバイスの役割を果たしてきた可能性を検討した.まず,再選を目指す首長には,財政規律を守るためのコミットメントデバイスとして,中央政府から出向官僚を受け入れる理由があることを,ゲーム理論に基づいて明らかにした.また,実証的にも,中央政府から出向官僚を受け入れた場合には財政規律が保たれやすいことを示した.工業団地と財政規律についての2つの研究はそれぞれ研究論文としてまとめられた.
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