研究概要 |
本研究の目的は,日本の中央・地方政府間,および地方政府間どうしの相互依存関係を,財政的・政治的な制度的要因が与える影響を十分に考慮しながら,理論的に考察し統計的手法によって検証することにある。平成23年度の実績は以下のとおりである。第1は,都道府県の財政規律の維持に中央政府が果たす役割についての理論的・実証的検討である、都道府県で働く中央政府の官僚は,中央政府とのパイプ役を果たしているが,「外部者」として独特な役割を果たしているかもしれない。本研究では,財政逼迫が深刻化する90年代後半以降,出向官僚が首長のコミットメントデバイスの役割を果たしてきた可能性を指摘し,現実妥当性を確認した。第2は,医療費助成や妊婦健診助成についての実証分析である.財政学では所得再分配の企画・立案は中央政府の役割とされてきたが,日本の地方政府は医療や福祉の分野で所得再分配を目的とする単独事業をさまざまに行ってきた。そのため,乳幼児医療費助成や妊婦健診助成にも市町村間で違いが見られる。医療費助成については助成の地域差が通院行動や健康に影響しているかどうかをまず検討し,通院を促進しているが健康水準には影響しないとの結果を得た。妊婦健診助成については市町村間の相互依存関係を分析し,同じ都道府県内の市町村の助成状況が正の影響を与えていることを確認した。第3に、政府間の水平的相互依存関係について、各政府が実施する政策の外部効果が代替的であるか、あるいは補完的であるかが、外部効果の自発的内部化の程度に影響することを示す理論分析を行った。特に政府間の環境基準設定競争を取り上げ、環境基準を「環境の質」という公共財への公共投入と見なしたうえで、環境問題の種類によっては、政策効果は補完的となり、適切な環境基準が自発的に設定される均衡が存在することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は個別の政策分野について政府間相互関係を検証することを目的としているが,財政規律全般についての分析は終えており,さらに医療費助成・妊婦健診助成・環境基準設定といった分野について理論的・実証的分析が進められている.実証面については必要なデータも集められており,さらなる分析が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
医療費助成等の所得再分配政策,環境政策等の個別施策の状況の差について,各地方政府の財政状況・地方政府の首長の属性や議会の構成,地域の人口構成,上位政府の政策動向,周囲の同級地方政府の政策動向の影響とともに,各施策の設定が他の政府に及ぼす財政外部性の性質を考慮して理論分析を進めるとともに,すでに集めたデータを用いた回帰分析を行って理論分析の妥当性を検証する.2000年代の市町村データが主に収集されているため,合併についてデータを精査する必要がある.また,計量経済学的な手法についてもより精緻なものを用いることとしたい.
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