今年度は、(1)08年10月から12月のリーマンショック後の金融緩和において、日銀の市場との対話が金融市場に与えた影響を検証する、(2)10年10月の包括緩和政策に関して、日銀の市場に対する情報発信と金融市場に与えた短期的な効果を検証する、の2点から研究を実施した。 (1)に関して、08年10月において金融政策の変更予想が急速に強まったため、金融政策変更の予想は2年物や5年物の金利には有意に及んだが、10年物金利への影響は有意ではなかった。一方、12月においては利下げ予想が緩やかに上昇したことで、中長期金利は金融政策の変更予想を徐々に織り込んでいった。このため金融政策に関する予想は、2年物金利、5年物金利、10年物金利に有意な影響を与えた。08年10月から12月における金融政策変更において、金融市場における政策変更予想を大きく動かしたのは、日銀による市場との対話ではなく、新聞による観測記事と政治家によるけん制発言であった。12月の利下げでは、およそ1週間で政策変更が徐々に織り込まれたことなどから、長めの市場金利も十分に低下したと考えられる。 (2)に関して、山口副総裁と森本審議委員は、基金を通じた資産買入規模を現行の5兆円から増額する可能性について言及した。日銀の市場との対話は、市場の期待に働きかけ緩和効果を引き出すよう形で、効果があったと推測される。1年物までの金利は包括緩和の実施約3カ月後には低下しており、短期金利の引き下げ効果はあった。一方、長期金利の低位安定効果はなかった。社債スプレッドが低下し、株価とJ-REIT指数の両方で価格が上昇したため、リスク・プレミアムの低下を通じて資産買入の呼び水効果があったとみられる。
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