研究概要 |
本年度の前半では、次年度以降の理論研究に向けた先行研究の調査と整理を中心的に行い、最新研究の動向把握に取り組んだ。本年度の後半では、空間的要素を考慮した租税競争についての分析を行うために、主に海外直接投資に伴う投資企業の立地選択に関連する理論モデルの構築を行った。海外直接投資に対して租税競争が与える影響を分析している従来の研究では、企業の生産性や投資先での既存企業の有無、失業などの雇用上の問題、輸送費用や関税などに焦点を当てた分析が中心的な研究であった。これに対し、本研究では海外企業が投資を行う際に直面することが予想される経済情勢の変化や、地政学上の問題、インフラの不備、通貨や為替の管理、さらには政情不安などの様々なリスク要因を抽象化しているのに加え、投資先の市場規模の違いも分析要因とした上で理論的な研究を展開した。分析の結果は、"Country risk, country size, and tax competition for foreign direct investment"としてまとめられ、現在採択に向けた加筆修正を行っているところである。また、EUを始めとして国際的な市場統合が進む中で企業所有の重要性は一層の高まりを見せていることを受け、企業の所有形態が統合市場の中でどのような影響を与えることになるのかを分析した。得られた分析結果は、"The role of firm ownership and strategic privatization in an integrated market: an international mixed oligopoly approach"として論文にまとめた。この論文は、現在、海外の査読誌に投稿中である。さらに、市場構造の非対称性を理論的にモデル化する基礎研究も行った。この研究は、海外企業が投資先として選択する市場が内包している構造上の違いについて主要な関心を置いたものであり、現在理論モデルの精緻化を図っているところである。
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