研究概要 |
本年度は,次の2点の研究を行った 1) 事例ベース意思決定理論(以下,CBDTと略す)の実際の妥当性とその頑健性を調べるべく,実際の企業財務データに基づく企業倒産確率推定において,既存の他の倒産確率推定モデルと,CBDTに基づく倒産確率推定モデルとのいずれがより優れた推定モデルとなるかの検証を試みた.今回は,既存のモデルとして,倒産確率の推定に実務的にも広く用いられているロジット・モデルを取り上げ,ロジット・モデルとの比較を行った.その結果,ロジット・モデルとCBDTにおいてほぼ同じような推定結果を得た.したがって,現時点では,我々の行ったCBDTに基づく倒産確率推定方法が既存のモデルを優越することを示すことはできていない.しかしながら,今回の実証研究では,CBDTによる倒産確率推定に当たって,その困難さから,個々の事例の財務データにおける類似関数値に対する加重値を最適化して求めることをしていない.そこで,CBDTで最適解を導出した場合,既存モデルより高い予測精度を持つ可能性があるので,現在,この点について改良を行っている.来年度は,研究成果をまとめて学会発表の上,専門学術誌に投稿する予定である. 2) 最適期待理論において導出される主観確率について解析的にその性質を導出した.1期間2項モデルを下では,最適期待理論に従って意思決定を行う投資家の場合,好状態の生起確率について,客観確率がある閾値より低い場合には,より低い主観確率を割り当て,逆に客観確率がある閾値よりも高い場合には,より高い主観確率を割り当てるという結果を得た.この結果は,Quiggin(1982)に始まるランク依存確率モデルを想定した場合の実験結果とは,相反するものであり,最適期待理論のもつ含意について一石を投じたものとなっている.この点が評価され,本研究成果は,研究発表の欄にあるとおり,国際専門誌に掲載された.
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