研究概要 |
事例ベース意思決定理論とは、決定すべき問題に対して、類似と思われる問題・事例を探し出し、当該問題との類似度を、ある尺度関数によって測定して数値化した上で、類似の問題・事例を勘案して最適な意思決定を行なうというものである。本研究では、この意思決定理論を資産価値評価に応用し、実際のデータを用いて企業の倒産確率の推定を行い、既存の倒産確率推定方法との比較を行うことで、事例ベース意思決定理論の資産価値評価への応用妥当性を検証した。 実証研究の対象企業として、東京証券取引所1部、同2部にて取引されている株式会社1,762社を対象として、1999年~2009年における決算財務データを用いた。各年において、倒産企業と非倒産企業をランダムに等分し、一方をパラメータ推定用データとし、他方を推定されたパラメータに基づく予測力検証、すなわち、モデル妥当性の検証に用いた。 事例ベース意思決定理論と比較する既存のモデルとして,倒産確率の推定に実務的にも広く用いられているロジット・モデルを取り上げ,事例ベース意思決定理論とロジット・モデルの企業倒産確率推定におけるパフォーマンスの比較を行った。 今回の研究での実証分析の結果は、倒産確率の推定においては、本研究での事例ベース意思決定理論に基づく倒産確率推定モデルは、ロジット・モデルとほぼ同様の推定あるいはやや上回る推定を行い、総合的に見ると事例ベース意思決定理論に基づくモデルの説明力はロジット・モデルよりやや高いという結果になった。したがって,事例ベース意思決定理論に基づく倒産確率推定モデルの使用に一定の意義があると考えらる。 今後、さらに、事例ベース意思決定理論に適した変数選択の方法を考察することで,事例ベース意思検定理論に基づくモデルによる倒産確率推定のパフォーマンスを向上できる可能性があると考えられる。
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