本課題研究では、望ましい公的リテール金融の在り方というテーマで、郵便貯金事業の特典と制約の中身を事業運営面と資金調達運用面とに分け、再度内容精査した上で、民営化以前の10年と民営化以降に関する推計を行い、わが国公的リテール金融の一つとして郵便貯金の歴史的な実態を数値的に明らかにする作業を行った。ここで資産調達運用面における推計と将来に向けた官民の競争条件に関するシミュレーションについて「暗黙の政府保証」「民業圧迫」といった問題の歴史的・国際比較的視点から慎重に作業を進めなければならないという認識が深まり、23年度までにわが国における郵便貯金等の民業圧迫問題を歴史的/構造的にとらえる作業を完成させ、加えて民営化が進む郵政事業のリテール金融(イギリス、ドイツ、ニュージーランド)についての国際比較研究を行った。そこでは、民営化後の郵政事業会社にユニバーサルサービス等の社会目的を「維持させていく」ために、①社会目的実現の原資となる利益が確保できるように経営の安定・発展が図られていること、②その結果として得られた余剰が社会目的実現に振り向けられる実効的枠組みが存在すること、という二つの条件が示された。 24年度は国際比較の対象国にアメリカ、オーストラリア、およびフランスを加えて、郵便貯金が完全に廃止されたケース(米)、公社段階が維持されているケース(豪)、そして近年まで公社が維持され民営化に至ったケース(仏)について分析を行い、民営化されない場合には公的リテール金融に関する政府関与の在り方次第で社会的責務履行の状況は大きく変化することが明らかとなった。 以上に述べた全研究成果は『ポストバンク改革の国際比較-相対化された郵貯論争』(2013年3月、柘植書房新社刊)にまとめ、出版された。
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