研究課題/領域番号 |
22530314
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
西岡 英毅 大阪府立大学, 経済学部, 教授 (20218118)
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キーワード | 財政学 / 動学的税収推計 / 人的資本蓄積 / 移行経路 / シミュレーション分析 |
研究概要 |
本研究の目的は、動学的税収推計を行うこと、すなわち、税制の変更による経済活動の変化が課税ベースを変化させることを通じて税収にフィードバックする効果を考慮に入れて、長期的な観点から税収の変化を推計することにある。当初は大域的シミュレーション法のみを用いて動学的税収推計を行う予定であったが、研究の経過に伴い、経済学的な意味がより直観的に得られやすい対数線形近似法を用いたシミュレーションを行う必要性を感じ、当初計画を少し変更して、対数線形近似法を用いて動学的税収推計を行った。本研究の意義は、対数線形近似法を用いて、税制改革後、新定常均衡に向かう移行径路を考慮に入れて動学的税収推計を行う点にある。本研究では標準的な経済成長モデルを用いて、税率切り下げに伴う税収の推移を動学的税収推計の観点から分析した。分析の結果、本研究のモデルの枠組みでは、税率を切り下げ資本蓄積を促進させれば(経済を成長させれば)税収は当初の落ち込みよりは長期的に幾分回復するが、税率切り下げ前よりも税収がかえって増加するという動学的ラッファー・カーブのself-financingの議論のような効果は見られなかった。シミュレーションの結果においては、典型的なパラメータ値の場合には、資本所得税減税の場合の長期的な税収回復効果が労働所得税減税の場合に比べてかなり大きいことを示した。ただし、消費一定の意味での労働供給の補償弾力性が大きくなるほど、また異時点間代替弾力性が小さくなるほど、現在価値の意味で見たフィードバック効果の差が資本所得税と労働所得税の間で小さくなることを見た。税制改革によって税収が長期的にどのように変化するかに関する数値情報は、今後の財政再建を意識した税制改革の議論にとっても、重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で触れたように、研究の経過に伴い経済学的な意味がより直観的に得られやすい対数線形近似法を用いたシミュレーションを行う必要性を感じ、当初計画を少し変更し対数線形近似法を用いて動学的税収推計を行ったために、当初計画よりやや遅れている。対数線形近似法と大域的シミュレーション法という2つのアプローチを用いることにより、両方法の長所をうまく取り入れながら、動学的に税収がどのように推移するかについてより深い理解が得られることを目指している。
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今後の研究の推進方策 |
対数線形近似法と大域的シミュレーション法という2つのアプローチを用いることにより、両方法の長所をうまく取り入れながら、動学的に税収がどのように推移するかについてより深い理解が得られるよう研究を推進していく。平成23年度には研究計画を少し変更して対数線形近似法を用いて動学的税収推計を行ったが、大域的シミュレーション法に関しては平成22年度に基本的なシミュレーションモデルを構築済みであるので、今後のモデルの拡張にも対応可能であると考えている。
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