本研究では,短期的な株価変動と投資行動の因果関係分析を調べることを目的として,日中の詳細な取引データであるティックデータを利用した分析を実施した.投資家の短期的な投資行動を象徴する取引として裁定取引に注目したが,近年の市場取引の高速化による影響が大きいため,取引の高速化と裁定取引の関係に注目した分析を進めた.具体的には,取引の高速化によって市場の効率性(主に価格発見機能と流動性)が改善したかについて,個別銘柄および日経平均指数取引に注目した分析を実施した.研究成果は関連発表も含め,4回の学会発表と1つの査読付き論文として報告した. 草野・永田・乾(2013)「ティックデータによる取引所高速化の影響分析」(日本オペレーションズ・リサーチ2013春季研究発表会)では,比較可能性の高い少数銘柄について,取引市場の高速化は投資家が負担する逆選択コストやマーケットインパクトの増加をもたらしたとする結果を示した.また,向殿・乾(2013)「株式の逆選択コストと指数先物の影響」(日本ファイナンス学会第21回大会(予定))では,分析対象を日経平均先物構成銘柄を含む約1000銘柄に拡大し,日経平均採用銘柄と非採用銘柄間で市場高速化が逆選択コストに与えた影響の現れ方に差があることを示した.さらに,パネルデータ分析によりその他要因を中立化しても市場高速化は日経平均採用銘柄の逆選択コストを増加させたという結果を示した.また,向殿・乾(2013)「取引所の高速化が市場流動性に与えた影響-日経平均指数取引に関するティックテータ分析-」(日本保険年金リスク学会,リスクと保険)では,日経平均指数バスケットおよび先物取引の流動性指標および実効スプレッドの分解を行い,市場高速化が価格発見機能や流動性を改善したとは言えないこと,さらに高速取引に対応できない投資家の取引執行上の問題について報告した.
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