本研究は、米国のサブプライムローン問題に端を発した金融危機が世界大不況にまで発展したことを理論的かつ歴史的な観点から分析・考察するである。本研究においては、金融危機の原因とその拡大メカニズム、また金融危機の世界的波及過程と実体経済との相互依存関係に関する理論的分析を行うこと、今回の金融危機と大不況を1930年代の世界大不況と比較することによって、その相違点と類似点を明らかにする、を目的としている。 本年度は、これまでの研究(藪下史郎(1995、2001、2002、2009、2010など)を基礎にし、これまでの文献を整理してきた。本年度の研究の過程で次のことが明らかになった。 1930年代の大恐慌また今回の大不況においても、金融危機また金融システムの破綻の前には株式市場や不動産市場においてバブルが発生し、それの崩壊が金融危機の引き金になり、経済を不安定化させた。したがって、金融危機と大不況を分析するためには、バブルの原因と発生メカニズム、またその崩壊のメカニズムを理論的に解明する必要がある。 バブルの発生と崩壊をもたらす要因を考察する際には、経済的側面に注目するだけでなく、社会学また心理学的側面から人間行動、投資家心理など明示的に取り入れ、社会の変化と制度的変化に注目する必要がある。しかしバブルの崩壊または株式の暴落が金融危機また大不況を必ずしももたらすわけではない。1929年の株式暴落が1930年代の大恐慌の引き金であるとしても、その結果大恐慌が必然的に引き起こされたのではない。金融危機および大不況の原因を一つの要因に求めるよりも、多くの要因が複雑に関連して生じたものと考えられ、またどの要因が強く働くかは、それぞれのケースによって異なり、歴史的な比較検討が必要となる。以上のようにこれまでの文献を整理する過程で、本年度は以下で示すように、雑誌および論文集に小論を発表した。
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