研究概要 |
今年度は,出世欲(キャリア・コンサーンズ)を持つ政策担当者間のヤードスティック競争という分析枠組みを構築し,各地域を行政区域として政策運営を担当する政治家や官僚が他地域での成果との比較によって相対的に評価されるとき,彼らは政策運営にどの程度努力するようになるのか,集権や分権といった政府統治の形態は彼らの努力水準にどのような効果をもたらすのか,検討した。政府統治の形態としては,すべての地域における政策の決定権限が中央の一人の政策担当者に与えられる「完全分権」,政策の種類別に決定権限が中央の,異なる担当者に割り振られる「縦割り型集権」,各地域での政策決定権限がすべて,その地域の一人の政策担当者に与えられる「完全分権」,ある政策は中央の一人の政策担当者によって決められるが,別の政策は地域ごとに異なる政策担当者によって決められる「部分分権」の4つを考えた。簡単化のため,政策は2種類で,対称的であると仮定した。その結果,次のことが明らかになった。第一に,完全分権,完全集権,縦割り型集権の順で政策担当者の努力誘因が低迷する。第2に,部分分権の方が縦割り型集権よりも多くの努力水準を引き出せる。したがって,4つの形態の中では,縦割り型集権のとき政策担当者は最も努力をしないといえる。第3に,地域数が少ない場合,残された3つの形態の中では,完全分権が政策担当者の努力水準を最も引き出せる。第4に,地域数が大きく,かつ政策担当者の能力の分散が十分に大きいならば,部分分権が政策担当者に,最も精励に努めるよう仕向けることができる。これらの結果をまとめた英文論文は内外の学会などで報告され,最新版はほぼ投稿の準備ができた形になっている。また,昨年度書いた外部性のある場合の分析はヨーロッパ公共選択学会で発表し,これもほぼ投稿できる形になった。
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