研究概要 |
本研究の目的は次の二点である。第一は,階層的政府構造における財政的外部性問題と財政調整制度について理論的に分析することである。そして第二に,得られた理論的帰結に基づいて,日本の中央-地方および地方政府間における財政的外部性を実証的に分析し,日本での地方分権化における周政調整制度のあり方について検討することである。 財政分権社会において生ずる財政的外部性については,既に数多くの理論,実証研究がなされているが,そのほとんどは水平的外部性のみに着目したものであり,垂直的外部性を踏まえた研究は,国内はもちろんのこと国外においても緒に就いて間もない。 そこで本研究では,理論分析を中心に次の3点について研究した。第一に,三層政府構造(連邦・州・地方)モデルにおける水平的および垂直的外部性と財政調整の効果についてである。第二に,動学モデルにおける水平的および垂直的外部性と租税協調の効果についてである。第三に,規模が異なる地域の間での租税競争と協調政策の帰結である。 第一の分析からは,権限移譲と財政調整の様々なパターンのうち,特に第二層(州)が第三層(地方)よりも強い権限を持っている場合,二つの外部性を内部化することができないことを明らかにした。また,第二の分析からは,労働供給の賃金弾力性の効果と租税協調による所得効果の大きさによって租税協調政策が資本蓄積(ひいては経済成長率)に与える影響が異なることを明らかにした。第三の分析からは,複数の地域が存在するモデルにおいては,特に小規模地域による租税協調からは経済全体の厚生改善が見込めることを明らかにした。
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