研究概要 |
本研究の目的は次の二点である。第一は,階層的政府構造における財政的外部性問題と財政調整制度について理論的に分析することである。そして第二に,得られた理論的帰結に基づいて,日本の中央-地方および地方政府間における財政的外部性を実証的に分析し,日本での地方分権化における財政調整制度のあり方について検討することである。 本年度においては次の3点について研究した。第一に,三層政府構造(連邦・州・地方)モデルにおける水平的および垂直的外部性と権限移譲の効果についてである。第二に,動学モデルにおける水平的外部性と地方分権化の効果についてである。第三に,地方財政健全化法の下でのヤードスティック競争の検証である。 第一の分析からは,水平的および垂直的外部性が存在している場合に,第二層(州)政府に対して財政調整手段の移譲という形での権限移譲を行うと二つの外部性を内部化できる可能性があることが明らかにされた。第二の分析からは,地方政府数の増加という形で地方分権化を表現した場合,動学モデルにおいて地方分権化は動学的な意味でも静学的な意味でも非効率を助長してしまうことを明らかにした。第三の分析からは,地方財政健全化法の施行時において,地方自治体が財政健全化行動を取った背景には,ヤードスティック競争の影響もあったことが明らかにされた。 平成23年6月には,本研究グループ主催で研究ワークショップが開催され,地方財政に関する最新の研究が発表された。またそれらに基づく活発な意見交換が参加者(総勢51名)によってなされた。また,平成24年3月には,本研究グループとカターニア大学(イタリア)公共経済研究グループの共催によって国際研究ワークショップを開催し,日伊の参加者による情報交換がなされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画においては,財政的外部性と財政調整制度の関係についてのみ焦点を当てることを意図していた。しかしながら,政治経済的要因を踏まえて理論・実証分析の枠組みを構築することによって,財政調整制度についてのより拡張的な解釈が可能となりつつあるからである。既にその一部については研究ワークショップにおいて発表している。
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今後の研究の推進方策 |
水平的な政府間での相互連関について,その要因を財政的外部性として解釈するのか,政治経済的競争関係として解釈するのか,海外の先行研究を参考にしながら判別手法を検討することを推進方策に加える。また,財政調整制度の種類や規模について政治経済的要因が及ぼす影響を考慮することを推進方策に加える。
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