不動産価格の上昇・下落と銀行融資の拡大・縮小は、各国のマクロ経済変動の重要な要因となっている。これまでの理論・実証研究では、ファンダメンタルズ(限界生産性)が資産価格を決定し、その資産価格(担保価値)の変化が銀行融資を増減させるという一方向の因果関係を想定したものが主流であったが、近年、「銀行が貸すから不動産価格が上がる」という逆向きの因果関係を想定に加えたより現実的な研究が始まっているところである。 本研究は、東京23区の小規模な土地取引事例を用い、銀行融資比率(LTV)が不動産価格に及ぼす影響を分析した。LTVが不動産価格に与える方向の影響を識別するための操作変数としては、融資に際しての抵当権の種類(一般の抵当権、共同担保を用いた抵当権、根抵当権の設定の3種類)を用いた。 分析結果は、銀行がある購入者のLTVを1%ポイント引き上げた場合、当該取引の不動産価格が0.2%程度上昇することを示している。近隣物件との裁定が相当に機能するクロスセクションでの価格比較で、融資の価格への効果が観測されたことははじめてである。また、銀行融資を全く受けていないサンプルを除外して借入金による購入者(レバレッジバイヤー)に限定するとこの係数は約7倍となり、仮にマーケットがレバレッジバイヤーのみであったら、1%ポイントのLTV引き上げが1.5%の価格上昇をもたらすことになる。現実のマーケットでは、自己資金のみによる購入者が存在するため、銀行融資が不動産価格に与える影響が大きく緩和されていることになる。 政策的には、不動産価格の急上昇に対し経験的に採られている銀行融資規制が有効な対策であることや、不動産への融資比率が大きい局面ではマクロ経済の安定化に注意が必要であることが示唆される
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