本研究は、1930年代前半期日本の経済統制に関する研究をさらに発展させることを課題として、(1)中央、地方各政府および中小工業組合による労働条件規制策の展開と、(2)労使双方が委員会を設置し協調して労働条件の維持・改善に取り組む産業協力活動に着目し、その特徴および限界について歴史実証的に明らかにすることを目的としている。この観点から本年度は、第1に、国立公文書館、外交資料館などにおいて政府の労働条件規制策および団体協約に関する公文書の調査・収集を行った。その過程で、特に繊維工業における労働条件の適正化が重要視されていることが明らかとなった。そこで第2として、捺染整理や剪毛工業を含む繊維工業の同業者組合(同業組合、工業組合など)による労働条件適正化への取り組みに着目し、兵庫県、大阪府、静岡県などの公文書館や歴史資料館において資料調査および収集を行った。以上の調査・研究から、1930年代に問題となる労働条件の適正化に対して、中央政府、地方政府、同業者団体がそれぞれどのような取り組みを行ったかを明らかにするうえで重要な資料を収集することができた。第3に、こうした資料調査と並行して連携研究者の清山玲教授との議論を通じて労働時間などの労働条件規制に関する認識を深めることができ、そこで得た問題意識をもとにさらなる資料調査を行うことが可能になった。以上のように、本年度は研究目的の(1)を中心に研究を進めた。これに対して来年度はさらに(2)に関連する資料調査も精力的に行ってゆきたいと考えている。
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