研究実施計画では3つの作業を予定していた。1.DGEモデルにカルテルを導入、2.開放経済の文献サーチ、3.利他的なつながりの喪失と地域間移動の関連についての文献サーチ、である。このうち、1.については、用いる理論モデルは確定した。すなわち、非農業部門は、無数の異なる財の集合体で、それぞれの財は一つの独占企業が生産をする、というモデルを採用する。しかし、モデルのシミュレーションの前に行うカリブレーション(パラメータの値の設定)の段階で難航した。具体的には、カルテルによる市場支配度を示すマークアップ比率の値の選定について、交付申請書であげられた先行研究で用いられた手法が最善ではないと考えるようになり、より適切なデータが使えないか検討した。特に岡崎(「戦間期日本における産業構造変化と産業組織」、2009年)で作成された産業別集中度がカリブレーションに使えないか検討を始めた。2.については、文献のサーチを終えた。財市場については、日本製品に対する右下がりの需要曲線を仮定するか、2国モデル(日本とそれ以外)を想定するのが適当であるとの結論に至った。資本市場については、金利は外生でなく対外資産に依存する仮定を置く。 3.については、交付申請書で予想したとおり、この分野での文献は少ないことがわかった。強いて言えば、標準的な利他的なマクロモデルに移民を導入する既存研究が本研究の目的に一番近いという結論に至った(この点については、平成23年度でも検討を重ねる)。
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