本研究では,戦前日本経済のDGE(dynamic general equilibrium,動学的一般均衡)モデルによる数量的な分析を目的としている。そのDGEモデルは,農業と非農業の2部門から成る。この2部門間の労働移動に阻害要因があったことが,戦前の日本経済の停滞の主因であるという既存研究があるが,とくに戦間期について,その研究の発展を図る。 平成23年度までに,(1)カルテルを導入したDGEモデルを構築し,(2)カリブレーション(モデルのパラメーターの値の決定)を終え,(3)シミュレーション(歴史的には観察されなかった政策や外生変数を前提としたときのシミュレーション―カウンターファクチュアルシミュレーションと呼ばれる―を含む)を行うためのMatlab プログラム(Matlabは,工学や経済学で広く使われている,行列にもとづいたコンピューター言語)の開発を終えた。平成24年度は,このプログラムを用いて,労働移動の阻害要因が存在する場合のシミュレーションを行い,戦間期の日本経済のGDPの推移を計算した。その結果,カルテルを導入したDGEモデルによって,戦間期の深刻な不況はある程度説明できるが,まだかなりの残差があることがわかった。 このシミュレーションで使用したモデルは,貿易を考慮しない閉鎖経済モデルだった。上記の残差を説明する一つの方法は,開放経済を想定することである。今後の研究課題としては,既存の開放経済の2部門モデルにカルテルを導入することが考えられる。
|