平成22年度に研究代表者は、ドイツ連邦文書館において「競争の歪みと預金保護に関する調査報告書」(1968年)ならびに同調査関連資料(1962年~1968年)を収集し、当初の研究目的のうちで第2に挙げた金融システムと金融関係諸立法・諸政策の関連性の問題を中心に取り上げて、戦後高度成長と競争政策全般の関連性のなかで分析した。「競争の歪み」の調査目的は、貯蓄銀行や住宅金融を目的とする長期信用金融機関などの公法金融機関が、民間信用銀行と業務領域が重なり合うために競争関係を強めていたなかで、とくにそうした競争状態が立法や行政機関によって歪められているかどうかを明らかにすることであった。研究代表者は、収集資料を分析することによって、競争の歪みの具体的あり方を次の3点において明らかにした。第一に、貯蓄銀行をはじめとする公法金融機関が貯蓄奨励のために税制上の優遇を受けていたこと、第二に、地方公共団体が公法銀行を「メインバンク」として行政の中で優遇していること、第三に公法銀行にて民間投資機関が資金運用することは、公共団体による保証責任よって有利にされていることである。以上に見られる金融業への政府・自治体の介入は、いわゆる社会的市場経済との関連では、社会国家的「公共性」を実現するドイツ経済の制度的特質と解釈されうる。連邦政府は公法銀行の競争上の優位性を意図的に認めて政策を実践してきたのであり、その背景には、金融システムの多様性がドイツ資本主義発展の比較優位な制度を形成し、それが戦後ドイツの急速な経済発展に有利に作用したという認識がある。研究代表者はこれらの分析結果を現在、研究論文としてまとめているところであり、この成果に基づいて、平成23年度の活動として、研究目的の第1に挙げた銀行競争の実態を中心に明らかにする予定である。
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