前年度までに収集した「銀行業における競争の歪み調査報告書」ならびに関連資料・文献を解読・検討し、関係研究者と連絡を取りながら研究目的の課題分析を進めた。 その結果、第一に、戦後西ドイツの1950年代以降における高度経済成長のもとで、50年代後半以降、信用銀行と貯蓄銀行が戦後直後の銀行解体政策の影響から回復し、61年の信用制度法改正による競争条件の法的枠組み整備に前後して、銀行3業態(信用銀行、貯蓄銀行、信用協同組合)は競争条件の不均衡をめぐって対立を深めたこと、第二に、こうした対立が「銀行業における競争の歪み調査」のきっかけとなり、その過程においてとくに貯蓄銀行に対する優遇税制が問題とされ、それは調査報告書が提出される同時期の67年税制改革によって部分的ではあるが改善されたこと、そして第三に、他方で1933年維持されていた利子率規制に関する3業態間の競争協定は1967年に廃止され、以上の過程を通じて銀行業における「公正な」競争条件の整備と実際の市場競争過程が深化したことを明らかにした。 こうした法的制度的枠組み整備は市場経済が機能するための前提条件を創出する措置であるが、他方で調査報告書は、貯蓄銀行が地域性と公共性を理念とする銀行類型であるとして特別に扱うことを認めており、このことから、貯蓄銀行を一つの重要な構成部分とするドイツ金融構造が戦前から戦後へと続く(西)ドイツ資本主義の基軸を構成する経済秩序として通貫し機能していたとして意義づけることができる。この成果については、大学紀要に研究論文として公表した。
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