『兼松史料』には、明治22(1889)年の創業から第二次大戦直前までに在職した従業員総数約600名の膨大な個別人事データが含まれている。そこから採集できるデータは、入社年月、出身地、学歴、配属部署、月俸と賞与、昇進過程、退職理由、退職年月など極めて詳細であり、包括的な時系列の人事システムの解明が可能である。本課題では、そうした人事システムから賃金構造に焦点を絞り、貿易商社兼松を題材に戦前期企業の一端を分析する。 ただし、それらの人事データは後年に執筆された社史の素稿である「兼松商店史料」を中心としつつも、重役書簡の「日豪間通信」や「辞令簿」など諸史料に分散して記録されており、諸史料からこまめにデータを採集しなければならない。とりわけ退職者の大部分をしめるのは入社数年の若年従業員であり、彼らに関する記述は僅少なので、その実態解明には相当の時間を要している。 本年度は、そうした諸史料から人事データを拾い上げて、個別人員の記録をまとめた「個票」の作成作業を遂行した。また今後の研究方針を考察すべく、日本経営史学会で報告し、様々な批判や意見を頂戴して、本課題を完成するために進むべき方向性を探ることができた。
|