研究課題/領域番号 |
22530338
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
藤村 聡 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (00346248)
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キーワード | 日本経済史 / 日本経営史 |
研究概要 |
賃金実態の分析は企業の人事管理の中心課題の一つではありながらも、従来の研究では史料的制約が大きいために、主に重工業系メーカーを対象に賃金構造のアウトラインを観察するに留まってきた。そこで本課題では、神戸に本店を置いていた貿易商社兼松の経営原資料『兼松史料』から、明治22(1889)年の創業から第二次大戦直前まで同社に在職した従業員総数約600名の膨大な個別人事データ-入社年月、出身地、学歴、配属部署、月俸と賞与、昇進過程、退職理由、退職年月-を抽出し、総合的に人事システムを解明することを目的にしており、特に人事情報の中から賃金支給に焦点を絞って分析を進めている。 従来の研究史では、戦前期企業は学歴に基づく強固な身分制社会であり、同時に戦間期に年功序列型の賃金構造が成立したと言われており、実際に三井銀行や重工業系メーカーでは学歴集団ごとに内部が区分している状態が報告されている。それでは中小規模のホワイトカラー企業であった兼松ではどうか。本課題は、そうした問題意識に立脚して『兼松史料』に取り組んできた。現在は、そうした人事情報が記載された「兼松商店史料」「日豪間通信」「辞令簿」から丹念に関連記録を採集した結果、各員の個票の作成が終了した段階にある。しかし、そこから総合的に兼松の人事政策を把握するには、個票の情報を有機的に相互に関連づけつつ各員を統合する必要がある。具体的には創業年から昭和14年まで約50年間にわたる各員の情報を盛り込んだ年次別の名簿を作成しなければならない。 昨年度は経営史学会大会で報告し、種々に有意義な意見を受けたのち、本年度は個別人員の記録をまとめた「個票」の作成作業を粛々と遂行しつつ、従業員全員の全貌把握という次の段階に到達できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の作業は飛躍的に進展した。その最大の理由は、「アクセス」(マイクロソフト社)の活用である。従来は人員データの管理は紙媒体を使った個票に基づいて分析していたが、総員600名に達する戦前期兼松の従業員を総合的に把握するには不充分である。そこでパソコン・ソフトの専門業者に依頼して、「アクセス」をベースにした兼松従業員の専門ソフトを作成した。本ソフトで従業員の情報をエクセルに転換することが可能になり、各種情報の管理と共に統計学的な分析が容易になることを期待している。
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今後の研究の推進方策 |
本課題は戦前期兼松に在籍した約600名の従業員に関して、賃金支給の実態把握を目指している。すでに紙媒体の個票の作成は終了しているので、平成24年度は従業員の基本的情報のエクセル入力に努めたい。 まずは本年度は総員600名の従業員のうち、約60名の女性職員を対象に個票の作成とその整理を遂行し、その成果は「明治~大正期の兼松における女性従業員」に結実した。ただし同論文は第一次大戦期までの期間に限定しているので、引き続いて戦間期の女性従業員の動向を観察する必要がある。そこでは前述の人員管理ソフト・アクセスを改良したデータベースが有効に働くものと期待している。 もちろん女性従業員以外に、従業員全員の人事情報の整理と分析にも進める予定であり、それを通じて戦前期企業における企業組織や人事管理の実態の一端が明らかになると思われる。
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