今年度代表者は、これまでの研究内容を一層幅広い視野で意義づけるために、次の2つの課題について検討した。 ①両大戦間期インドの通貨制度の枠組みをなした金為替本位制を定着に導いた1913/4年の王立委員会における議論を検討し、その時点でイギリスが金為替本位制採用に込めた政策意図を明示した。この委員会を主導したJ.M.ケインズの主張に即せば、主要意図はインドが稼得した貿易黒字資金のイギリスへの集中にあったが、他方で植民地支配安定の見地から、金為替本位制の持つ弾力性をインド経済開発の条件整備に振り向けようとする政策意図も前者との矛盾関係のうちに提起された。しかし委員会全体においては後者の意図を理解・支持する者はきわめて少数であった。 ②金為替本位制という通貨制度を広く近代的貨幣制度の歴史的変遷の中に位置づけ、その一般的性質を植民地支配下のインド金為替本位制の特質と対比した。金為替本位制は、国際的な金の節約を進める、国内的に信用拡大=通貨供給の制限を緩和する、国際的借入(国際協力)により通貨準備を増やす便宜を開く等の点で、金貨流通・銀行券兌換にもとづく金本位制に比して、より弾力性に富んだ通貨制度であり、各国経済および世界経済のさらなる発展の条件となりえた。それらの特質はインドに金為替本位制を導入する名分として利用されたが、本研究が示したように、両大戦間期においてその弾力性がインド経済発展のために発揮されることはなく、また国際協力はインドによるイギリスへの一方的貢献にとどまった。それは上述のイギリスの政策意図によるとともに、イギリスが基軸通貨国として厳格な金兌換制をとらねばならないという当該期の国際通貨体制の特質にもとづいていた。そのためインドの金吸収抑制が図られ、通貨収縮によるデフレ策がインドに強制された。この点に金兌換停止後の現在に至る「ドル本位制」との本質的相違がある。
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