本研究は明治漁業法の成立と周辺地域への普及に関するものであり、特に成立過程について、帝国議会での法案審議にあたって独自の意見を表明した北海道の漁業者に着目し、立論の根拠を確かめることに重点を置いた。また普及については、朝鮮に注目し、漁業法の適用過程とそれに応じて漁業組合が形成され、活動していく実態を解明することに主眼を置いた。 本年度は、札幌調査を2回行った。調査先は北海道立文書館、北海道大学附属図書館であった。ここで、北海道の漁業組合と水産組合に関する資料を収集した。さらに、これまでの北海道および韓国調査を取り纏め、明治漁業法の成立過程と普及過程の意義を考察するための参考として、漁業制度関係の図書および資料を購入した。 北海道に関しては漁業法成立以前に漁業組合が広く結成されており、同業組合として活動していた。それらの漁業組合は漁業法成立以後は水産組合として、新しく結成された漁業組合と協力しつつ、漁村地域で活動を続けていく。こうした漁業法成立以前の漁業組合と、漁業法成立以後の水産組について、重要な資料を発掘し、論文として発表することができた。これらの漁業組合、水産組合に結集したのは、ニシンやサケ・マス定置網などの沿岸地域の有力漁業者であり、それらの漁業者は漁業法成立以前に築いた権益が侵害されることを危惧し、当初の漁業法案に疑問を提出し、その意見を成立した漁業法に反映させたことがわかった。 朝鮮については、東京海洋大学に所在する日本人関係の漁業組合資料をまとめ、論文にすることができた。朝鮮における漁業組合は、朝鮮漁業令によって漁業組合設立が認められることによって発足したものであるが、その性格は日本の漁業組合とは異質な面があり、日本人だけの漁業組合が存在した。これらは漁業組合に関する法的な規定の例外であった。 以上の研究の取り纏めにはアルバイターを雇用した。
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