研究課題/領域番号 |
22530347
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
村越 一哲 駿河台大学, メディア情報学部, 教授 (80265438)
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キーワード | 乳児死亡 / 女性労働 / 母子保健 / 明治・大正期 / 農村保健衛生 / 育児 / 母乳哺育 / 農業労働 |
研究概要 |
乳児の生死は母体の健康状態、養育条件等の影響を強く受けるため、乳児の死亡率はその地域の経済・教育や保健医療の水準を反映する指標とされる。この乳児死亡と、母体の健康状態や育児、母子保健、医療、さらにそれらに影響を与える社会・経済環境との関係を歴史的に検討することは、人間の生存とそれを制約する社会との関係を理解するために重要な課題である。本研究はこのような問題意識に基づき、大正期の農村を対象として次に示す仮説を立てた。「大きい女性の労働負担」→「低い授乳頻度→母乳不足」→「発育不良」(栄養不良)→「宿主の抵抗力<病原体の感染力」→「高い新生児期以降の乳児死亡率」という因果関係で労働負担と死亡率とが結ばれるというものである。この仮説をさらに展開して、「栄養不良の改善」→「宿主の抵抗力>病原体の感染力」→「新生児期以降死亡率の低下」という因果関係で昭和期の新生児以降の乳児死亡率を説明する仮説を立てた。本年度は、この仮説を構成する要素のうち「授乳頻度」と「栄養不足の改善」について、1939-40年に調査された『農山漁村母性及乳児の栄養に関する調査報告書』(恩賜財団大日本母子愛育会愛育研究所保健部編、愛育研究所、南江堂、1944年)を分析し、次の結果を得た。大正期から昭和期に「授乳頻度」が変化したか検討したところ、1930年代の農村では大正期と同じくいくつかある授乳方法の選択肢に変化はなかった。このことから1930年代における「授乳頻度」は大正期のものと同様低くかったと判断した。低い授乳頻度により1930年代においても生じていたと推測される「母乳不足」に対しては、母乳だけで育てる期間を短くしたり、大正期によく利用された練乳だけでなく牛乳さらにはより安全性の高い粉乳を使用したりして、「栄養不良」を回避したことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に示した資料を適切にデジタル化する作業を行うことのできる人員の十分な確保が難しかった。 このことが原因となり、データ分析用のデータベース作成作業が遅れた。その結果、分析対象のデータがなかなか揃わず上述の評価となった。
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今後の研究の推進方策 |
来年度が本研究の最終年度となるが、部分的であっても、データセットが揃ったところから、順次分析をはじめるようにする。このことにより、これまでの「やや遅れている」状態が改善し、研究計画どおりの「順調」さらには「当初の計画以上」の成果を出したい。
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