三井物産の競争力を強く規定していたとみられる金融力を解明するため、同社の帳簿等に手掛かりを求め分析することが本研究の狙いである。本年度は第1に、麻島作成の『三井物産元帳の内容検索』を駆使して、三井文庫所蔵の本店元帳群から金融関連部分を大量に複写し、本店における金融、本支店貸借などの事実関係の把握に努めた。第2に、本支店の総勘定書、損益勘定書などの財務諸表が同文庫所蔵資料にあることを調査、発掘した。これも大量に複写、整理し、元帳とは違った材料、角度から金融、本支店貸借の実態を把握することができた。総勘定書や損益勘定書は、基本的には貸借対照表、損益計算書に相当するものであるが、物産独自の会計処理によるものであって、計数だけでなく具体的な取引内容も記載され、実に有効な資料であり、分析に大いに役立つ。第3に、支店サイドの金融操作を探るべく、物産シドニー支店の帳簿類にアクセスした。すなわち、所蔵のオーストラリア国立公文書館シドニー分館に赴き、同支店の帳簿類を調査、必要分を複写したわけである。先にアメリカ国立公文書館(ワシントン所在)で在米支店の経営資料を複写、利用したが、シドニー支店の事例を加えることで、支店サイドの金融実態をより広く、深く分析することが可能となった。以上の材料収集を踏まえ、課題の分析に取組中である.
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