本研究では、戦前最大の総合商社であった三井物産を対象として、同社の競争力を強く規定していた金融力の実態解明を目的とする。大規模な組織を擁し営業活動において強い競争力を発揮した同社にあって、それを支える資金の問題は重要であるが、その実態はこれまでほとんど解明されていない。そこで本研究では、三井文庫所蔵資料や海外接収資料など一次資料をもとに、金融力の実態を解明する。 本年度は主として、昨年度、オーストラリア国立公文書館シドニー分館で収集した三井物産シドニー支店引継書を中心に支店金融力の実態解明に努めた。本年度の研究を通じて得られた成果は以下の通りである。 三井物産では1910年代になって自己資金だけではなく、借入金等外部からの調達も含めた資金使用可能額を金融力と称するようになり、資金需要が増大した第一次大戦期以降その拡大に努め、ピーク時の1919年下期には3億8千万円にも及んだ。それら本店資金は本支店貸借を通じて部や支店に供給されたが、1920年代半ばにかけて、世界各地の支店では現地銀行からの調達や支店独自に留保された損失準備金などを通じて本店からの金融的な自立化が進んでいった。 さらに両大戦間期には本社全体の金融業務を統括する本店会計課を中心に財務的スキルを蓄積した人的資源が蓄積されるようになっており、これら専門的人員が基盤となって新たな資金調達方法の開拓や為替の改善など金融面での優位性を確保する手段が次々と開発されていった。
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