本研究では、日本に総合商社が成立し得た要因の一つとして重要な意義を持ったとされるリスク管理の実態について、両大戦間期の三井物産、三菱商事をはじめとする各社の一次資料を用いて分析することを目的とする。具体的には、当該期の取引先信用制度と見込商売について、主としてアメリカ合衆国国立公文書館およびオーストラリア国立公文書館シドニー分館に所蔵される接収資料を用いつつ、両大戦間期にわが国総合商社が環太平洋貿易で強い競争力を有するにいたった要因を実証的に解明する。 環太平洋貿易のうち特に三国間貿易は、両大戦間期における総合商社の主要な業務であるが、海外の取引先の信用把握が困難でかつ大規模な見込商売が展開されるためリスクの高い取引であった。本研究では世界各地に残されている商社の取引先信用に関する一次資料群からこれら制度の具体的内容やその形成過程の分析を進めた。これら分析を通じて、総合商社は取引先信用に伴う不良債権の増大に対応して、1920年代以降、取引先の信用を審査する制度を大幅に整備し、また景況に応じてそれら許容リスクの総量を弾力的にコントロールすることで全社的なリスク管理体制を強化していった実態が解明された。 また取引先信用と併せて重要なリスク管理対象となった商品の売り持ち買い持ちなどの見込商売についても、支店間の情報共有や本店での審査の強化を通じてリスクコントロールがなされた。 ただし、同じ総合商社でも先発商社であった三井物産と後発商社の三菱商事では管理体制の違いがみられた。
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