本研究は、米国ブルッキングス研究所所蔵の連邦準備制度理事会および各連邦準備銀行の内部史料を内外でも初めて包括的に利用することで、連邦準備制度の管理運営組織と政策形成の特質を新たな視角から解明しようとするものである。本年度は、まず取締役(銀行家・農工商関係者・公益代表)、および連銀総裁の個人経歴原票をデータベース化する作業を行った。その分析結果をアメリカ、ラトガース大学経済学部のワークショップで発表した。この発表では、これら地区連銀取締役および総裁の社会的背景(特に職業、在職期間、年齢)が大恐慌を挟んで大きく変化したことを強調した。セミナー参加者からは、これらの事実が金融政策とどのように関連していたのか、また地区連銀の取締役や総裁らがどのようにして選出されたのか、またそれぞれが地区連銀のガバナンスにどのように関わっていたのかを解き明かすことで、研究の重要性が増すとのコメントをもらった。 実は、地区連銀の取締役や総裁の選出プロセスの実証分析もガバナンスにおける彼らの果たした役割についても、1935年銀行法による連邦準備制度理事会の権限強化の影響から、研究のほとんどが大恐慌以降は行われていない。しかし、加盟銀行が地区連銀の設立・所有者である仕組みは何ら変更されずに続いており、そのため2010年成立のトッド・フランク金融制度改革法で地区連銀総裁の選出方法を変更せざるを得なかった。大恐慌を挟んだ時期における地区連銀のガバナンスに関する詳細は、トップ経営者らの経歴データと合わせて分析し、2011年春開催予定の日本金融学会で発表する予定である。
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