本研究は,米国ブルッキングス研究所所蔵の連邦準備制度理事会および各連邦準備銀行(地区連銀)の内部史料を内外でも初めて包括的に利用することで,連邦準備制度の管理運営組織と政策形成の特質を新たな視角から解明しようとするものである。 本年度は最終年度にあたり,これまで行ってきた地区連銀取締役(銀行家・農工商関係者・公益代表)および連銀総裁に加えて,連邦準備制度理事会(理事会)メンバーの個人経歴原票のデータベース化,これをもとにした連邦準備制度全体のガバナンスの変遷を分析した。従来の研究が法改正による制度変更を強調するのとは違って,本研究は,理事会議長エクルズの強力な政治力のもと,総裁や取締役会議長,加盟銀行代表取締役らで構成し,地区連銀の政策運営の核となる執行委員会を形骸化してその機能を総裁に集中し,また理事会の地区連銀総裁支配を強化する,大胆なガバナンス改革を断行したこと,かかるガバナンス改革が地区連銀取締役および総裁の社会的背景に反映されていることを明らかにした。以上の成果を英語論文に纏め,日本金融学会英文ジャーナルに投稿した。 さらに,第二次世界大戦以降の地区連銀取締役会構成員および総裁の社会的背景を分析し,上記ガバナンス改革後もなお,加盟銀行代表取締役が総裁人事で重要な役割を果たし,これが2007/08年金融危機に至る時期の連邦準備制度幹部らの「システミック・リスク」認識に投影され,従って2010年ドッド=フランク法によるガバナンス改革に結実したことを解明した。この成果は,2012年11月開催の経営史学会統一論題で発表した。また,連邦準備銀行のガバナンス改革は,第二次世界大戦期のブレトンウッズ構想に影響を与え,国際通貨基金や世界銀行の統治機構に帰結した点も明らかにした(何れも2013年度に分担執筆図書として公刊予定)。
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