本研究の課題は第1次世界大戦期ドイツにおける社会保険の動向を明らかにすることであるが、平成22年度にはいくつかの方向からその準備がなされた。その一つは文献・資料の収集であり、これについては、ベルリンの国立図書館で関連文献を閲覧し、必要部分をコピーしたのをはじめ、国内の多くの図書館が所蔵する文献を、直接訪ねたり相互貸借の制度を利用したりして収集することができた。さらに、社会保障の歴史に関する新刊の書物を購入できたことも収穫であった。 第二の作業は、分析枠組みをどのように構築するのかという点にかかわる。これについては、とくに藤瀬浩司名古屋大学名誉教授を招いて、20世紀国家の機能について、また、第1次世界大戦がドイツ社会に対してもった意味について、じっくりと意見交換できたことが収穫であった。 これらのことと並行して、今年度に収集した文献・資料を利用して(とくに法令の整理・分析をとおして)、ドイツ社会保険制度の展開を具体的に把握する作業が開始された。それは、主として次の二つである。(1)1880年代に三つの保険法が成立して以降、1911年のライヒ保険令に至る社会保険制度の仕組みとその変化を明らかにした。(2)被保険者数、疾病・事故数、保険給付額、保険機関の収支などについての統計数字を整理することによって、これらの保険制度が当時のドイツ社会でどのように定着していたのか、対象となった労働者の生活にとってどのような意味をもっていたのか、また、それぞれの保険はどのように運営され、どのような問題をもっていたのか、を明らかにした。
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