本研究の目的は、ドイツの社会保険制度が第1次世界大戦という総力戦のなかでどのように機能し、どのような問題をもっていたのかを明らかにすることである。 本研究において研究代表者が最初に取り組んだのは、ドイツの社会保険制度が成立した1880年代から第1次世界大戦までの社会保険制度の基本的な枠組みと実績を明らかにすることであった。法令の条文や制度の運用にかかわる基本統計を整理・分析することによってなされたこの作業は、本研究にとってはいわば舞台装置をつくるような準備作業である。しかし、第1次世界大戦前に限ってもドイツの社会保険制度に関するまとまった研究成果がないという状況の下では、これ自体が意味をもつ研究成果となった。 第1次世界大戦期については、研究代表者は、まず、ドイツの社会保険制度が大戦にどのように対応したのかを明らかにする作業に取り掛かった。第1次世界大戦は、当初の予想に反して4年あまりの総力戦となった。これはドイツ社会保険制度が全く想定していなかった事態であり、戦争期間には夥しい数の改正法、布告が出されることとなった。そうした法令・布告を収集し分析することによって、社会保険制度が従来の骨格を維持しながら戦争に対応していこうとする姿勢が明らかとなった。 そうした制度的な変容のなかで社会保険制度があげた実績と抱える問題とを明らかにするには、この時期についても基本的な統計の整理・分析が何よりも主要な課題となる。統計のあり方は制度の変更や戦争の影響をうけており、保険制度の実態を戦前期からとおして把握するには困難も伴ったが、おおよその趨勢を把握することができた。そこから得られる結論は、社会保険制度が環境の激変に予想以上に有効に対応したことであり、制度がそれなりの柔軟性を備えていたことである。その内実や、制度運用の背後に潜む問題点を探る作業が現在継続して行われている。
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