当該年度は、ドイツとフランスの同族大企業の企業統治の全体像を把握するため、両国の研究者、企業経営者とのインタビューを実施した。同時に資料を収集した。その結果ドイツにおける同族企業数の高さは最近の資料により金融企業を除く最大100社の30社30%が同族企業であることを示すことができた。 その後ドイツの同族大企業に焦点をあてクルップ、ボッシュ、メルク、フレゼニウスの4社における企業統治の実態を明らかにした。その結果、ドイツでは同族大企業に適した企業の多彩な法的形態が存在することが明らかとなった。ドイツの法的形態の柔軟性と実用主義は他国には見られない特質であり、特に無限責任出資者に有限会社を設置する合資会社形態は同族企業に広く利用されている。これがドイツにおける同族企業の発展に大きな役割を演じたことが新しい発見である。以上に関する知見を「ドイツ医療関連同族大企業の企業統治-メルク株式合資会社とフレゼニウスSE社の事例」と題する論文にまとめ季刊誌「医療と社会」2011年7月号に掲載予定である。 また殆どの同族大企業は公益財団を設置しており、これが同族企業の永続性、独立性の維持と後継者問題の解決に重要な貢献をしていることが明らかになった。これについては「ドイツ同族大企業の公益財団と統治機構-ボッシュ公益財団とクルップ公益財団」として執筆を完了し、2011年5月末にドイツの学会で発表する機会が与えられた。このような同族企業を含め多くのドイツ企業の公益志向はドイツの伝統的な所有権の社会的責任概念に由来することを研究発表欄に記載の論文により指摘した。
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