ドイツの同族大企業についてほぼ資料の収集を終え、クルップ、ボッシュ、ツァイス、ベルテルスマン、フレゼニウス、メルクについて企業統治の実態と歴史について書籍としての発表を目的とする原稿を書き上げた。その過程で得られた知見はこれら同族大企業においては従業員を中心とする企業内福祉が充実していること、これが公益財団の形で制度化されていること、である。その源泉は16世紀に繁栄した貿易・金融企業のフッガー家であり、これについては該当年度に本報告書に記載した論文を発表した。 フッガー家に次ぐ大きな影響力を今日のドイツ同族大企業に及ぼした企業はクルップであり、該当年度の6月に同社所在地エッセンを訪れ、創立200年展示会を見学した。また同社の公益活動としてのエッセン住民のための住宅街を見学した。これにより同社に関する原稿の完成度をより高めることができた。ただし公益財団の企業統治への影響は企業により差が大きく、ボッシュを最善の成果が得られているとすれば、クルップのそれはかなりの問題を有する。その原因を公益財団と事業会社との利害衝突に起因すると結論づけた。 なお自動車のBMW社も大同族企業であり、これについても原稿をほぼ完成した。これは上場企業でありながら同族のほぼ半数による持株比率により大きな経営的一貫性により成功している。 フランスについてはドイツとは異なり、企業による公益財団設立が少ないことが判明した。その歴史的要因を調べ、本報告書に記載の学会にて発表した。その要旨はフランスにおいてはドイツのフッガーによる福祉住宅が500年経た今日に至るまで存在し、利用されているのに対して、フランスにおいてはそのような模範ないし伝統がない点を指摘した。またフランスにおいては経営者と従業員との関係がマルキシズムの影響により敵対的である。 中間的結論として同族企業内の従業員福祉の向上が公益財団の前提であるといえる。
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