本年度は1)R&D投資の阻害要因に関する実証分析,及び,2)環境経営と資本コストとの関係に関する実証分析を主に行った. 1)に関し,製造業の環境対応はイノベーションと密接な関連があると考えられるが,2000年代の日本企業では退職給付に関する積み立て不足が企業のR&D投資を阻害していた可能性がある.積み立て不足は発生後すぐに企業のキャッシュフローに影響を与える訳ではないが,追加的な拠出を通じてその後の長期的なキャッシュフローに影響する.このため,積み立て不足の発生は調整費用が高く継続的な投資が必要なR&D投資を抑制する可能性がある.東証上場の製造業を対象とした実証分析の結果,積み立て不足がR&D投資を抑制する傾向が確認できた.また,本テーマにおいては,積み立て不足がR&D投資に及ぼす直接的な影響のみならず,積み立て不足発生の可能性(確定給付型年金の有無)がR&D投資に及ぼす影響についても検証した.確定給付型年金を有する企業では将来の積み立て不足発生に備えてCashを保有する必要があり,このことが内部キャッシュフローや株式発行による資金の使途に影響を及ぼす可能性がある.分析の結果,確定給付型年金が充実している企業では内部資金や外部資金を機動的に設備投資等に使えない可能性が示唆された.これらの成果は2本の論文にまとめ,投稿に向けて準備中である. 他方,2)については東洋経済新報社のCSR企業総覧データ,及び日本経済新聞社の環境経営度調査を用い,株価から逆算される資本コストとの関係を検証している.今年度は資本コスト推計モデルについても調査を行いながら,予想データ等を加工するプログラムを作成し,実証分析に必要なデータを整備した.現在はデータの傾向を確認しつつ推計用のプログラムを作成している.
|