研究概要 |
平成22年度においては,情報通信技術(ICT)ならびにICTを活用した情報システムの開発と利用の主体としての企業が,どのような倫理問題に直面し,それに関するどのような社会責任を,どのように負うべきなのかについて研究する一環として以下のような研究成果を上げた。いずれもICT立国を目指す日本にとって有意義な示唆を持つ。 1.企業における情報倫理問題への的確な対応のために必要とされるプロフェッショナルICT人材の育成が,現在の日本のICT産業における雇用・労働慣習やそれを取り巻く教育体制・文化といった要因によって困難になっていることを明らかにした。 2.女性従業員への聞き取り調査に基づき,日本のICT産業において潜在しているジェンダー問題が,男女の雇用機会や条件を平等にするという社会的に正当化される行動を契機として,男性従業員に対する暗黙の労働強化圧力として発現しうることを見出した。 3.日本企業において知識の創造や共有が阻害されたり,創造された知識の社会的影響に対する無責任状態が生じたりする状況を引き起こしうる原因が日本の社会・文化特性の中に潜在していることを明らかにした。 4.プライバシー侵害のリスクを付帯する防犯カメラなどのICTを利用したセキュリティシステムの導入が現在の日本社会に受容されつつある原因の一つが,企業における長期雇用慣習の変化に伴って生じている「近代化された世間の解体」であることを示した。 5.P2Pファイル共有システムの利用状況について日瑞比較研究を行い,日本のネットユーザの「政治性のなさ」がICTの利用に関する倫理問題を引き起こす要因となりうることを明らかにした。 6.民間部門を対象とする日本の個人情報保護法制の社会.経済的背景を明らかにした。 7.日本企業における情報システム開発と利用の歴史を検証し,そこに蓄積された叡智が現在の日本企業の情報システム開発・利用に十分に生かされていないことを指摘した。
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