研究概要 |
平成23年度においては,ソシアルメディアの普及を踏まえ,情報通信技術(ICT)ならびにICTを活用した情報システムの開発と利用の主体としての企業が,どのような倫理問題に直面し,それに関するどのような社会責任を,どのように負うべきなのかについて研究する一環として以下のような研究成果を上げた。 1.個人情報の流通に関する情報主体のコントローラビリティを前提することが難しい技術-経済環境において,伝統的情報プライバシー権に代わる新たな人間の権利として「忘却する権利」を提唱し,あわせてEU諸国を中心に議論されている「忘却される権利」の概念の見直しを行った。忘却する権利は個人情報へのアクセスではなく,利用に焦点を置く点でこれまでの個人情報・プライバシー保護の考え方とは一線を画すものであり,ソシアルメディアに代表される現代的な情報環境における個人の自律性の確保と人間の尊厳の保護にとって重要な権利概念である。 2.日英両国における聞き取り調査に基づき,若年層のネットユーザがソシアルネットワーキングサービスの利用に関する規範をどのように認識しているのかについて国際比較分析を行った。 3.日韓両国におけるオンラインプライバシーポリシーに関する国際比較研究をアンケート調査に基づいて実施し,両国間での若者のオンラインプライバシーポリシーに対する認識の相違の背後に,価値観と文化の相違が存在していることを明確にした。 4.ソシアルメディアの普及によってネットユーザが自分あるいは他人の個人情報を開示・シェアする情報環境が生み出されたことが,とりわけ若者のデジタルアイデンティティの,したがってリアルワールドでのアイデンティティの歪みをもたらしうることを指摘し,そうした事態を未然に防止するためのデジタルアイデンティティ保全教材を開発した。 5。経営情報品質に関わる倫理的・社会的側面の特性について明らかにし,現代企業にとって社会的に受容される経営情報の活用について論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書の記載時には問題意識に上らなかった若者のデジタルアイデンティティの保全に関し,ソシアルメディアの急速な普及を背景として,その重要性が認識され,海外の研究協力者を得てデジタルアイデンティティ教材の開発に成功した。また,現代の情報技術環境における情報プライバシー概念の有効性を検証し,その結果として,忘却する権利という新しい権利概念を提唱することができた。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書提出当時の研究課題については着実に研究を推し進め,同時にICTの急速な発展と普及の状況を踏まえて,関連する研究課題を発展的に見出し,積極的に理論構築と調査・検証を行う。現在のところ,研究推進に関して問題点は見いだせない。
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